腋臭症(わきが)とは?
●腋臭症とは?
「ワキガ」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?脇には多汗症と異なり「腋臭症(ワキガ)」と呼ばれる症状があります。腋臭症は、独特の”におい”に焦点を当てた症状です。
なぜ脇だけ少し特殊なのでしょうか?
それは、脇には人体の他の部位にはあまり見られない汗腺「アポクリン腺」が存在するからです。(汗腺や汗についてはこちら)
「アポクリン腺」から分泌される汗は、主に体温調節を担ってきた汗腺”エクリン腺”と異なり、性的に異性を惹きよせるなど、動物におけるフェロモンに似た役割を果たしてきたと考えられています。
●腋臭症のにおいのもと
実は、アポクリン腺から分泌された物質は、分泌時には無臭です。ではなぜにおうのでしょうか?
脇には、アポクリン腺の他にも、エクリン腺、および皮脂腺が点在しています。
これらの分泌物質が混ざり、皮膚の表面に存在する微生物(主にブドウ球菌とコリネバクテリウム)の作用で、蒸発しやすい物質(揮発性有機化合物 )の複雑な混合物が作られ、においの原因になると言われています。
●腋臭症のにおい主成分
においの原因となる主成分は主に3つです。
①( E )-3-メチル-2-ヘキセン酸 (E-3M2H)
ヤギのようなにおいと表現されます。
「脂肪酸」というものの一種で、脂肪酸は生き物が生きていく上で必ず生成する成分のため、生き物のにおいの素とも言われています。
②3-ヒドロキシ-3-メチルヘキサン酸 (3H3M)
クミンのようなスパイシーなにおいと表現されます。この物質も脂肪酸の一種です。
③揮発性硫黄化合物( S )-3-メチル-3-スルファニルヘキサン-1-オール)
硫黄のにおいです。微量しか含まれていない成分ですが、僅かなにおいでも感じ取れるため、臭気への影響は大きいです。
●腋臭症の汗腺
腋臭症の人のアポクリン腺は、数が多く、大きく、分泌量が多い傾向があります。
胎児のときに毛器官とともに発生し、出生後に一時退化します。そして、思春期以降に再び発達します。アポクリン汗腺の汗は、主に感情の刺激によって発汗します。
●腋臭症と遺伝子
腋臭症は、遺伝子も関係していると言われています。「ABCC11遺伝子」という遺伝子です。(この遺伝子からは腋臭症のレベルの他に、耳垢の表現型も推測できると言われています)
この”ABCC11遺伝子”には「遺伝子型」があります。(血液型のようなものだと考えたら分かり易いと思います)
人種によってどの型を持っているか、ある程度の傾向があります。
腋臭症の東アジア系の人々は”TTホモ接合体”と呼ばれる遺伝子型を持っており、
腋臭症の白色系人種やアフリカ系の黒色系人種の方は”CCホモ接合体”と呼ばれる遺伝子型を持っています。
このような遺伝子の違いから、においの原因となる物質の量に差が出て、東アジア系の人々は、他の人種と比べて脇のにおいのレベルは低いと言われています。
しかし、同じABCC11遺伝子型を持つ白色系人種やアフリカ系の黒色系人種の方々の間にもにおいの強さに差があり、この他にも関係してる遺伝子があるのではないかと言われています。
●腋臭症の割合
日本ではおよそ10人に1人がワキガの症状を持つと言われています。腋臭症は優性遺伝し、親子ともに現れる事が多いですが、日本人などの黄色人種ではその頻度は約10%にすぎません。白色系人種や黒色系人種のほとんどの人は、多少とも腋臭の症状があるようです。
イギリス人女性を対象にした研究では、においがしないABCC11遺伝子型を持っているのはたった2%だったという研究結果もありました。しかし、この遺伝子型は、東アジアではより一般的であると言われています。
●腋臭症と食物
食物が腋臭症のにおい成分に影響を与えているのではないかという推測もされています。
あくまで推測の領域ですが、
例えば、白色系人種の人々は東アジア系や黒色系人種と比べて高い乳糖耐性をもっています。白色系人種の人々は乳製品を多く摂取することができるため、乳製品に関わって作られるにおい物質”イソ吉草酸と 2-メチル酪酸”などの量は他の人種よりも若干多い傾向があると言われていたり、赤身肉の消費はにおいを強くすると言われていたりするようですが、しっかりとした対照的な実験データがあるわけではありません。
●まとめ
腋臭症特集①では、そもそも腋臭ってどういうものなのか、というところに焦点を当てて紹介しました。
ワキガには遺伝子型が関わっていることが分かりました。
また、ワキガのにおいは、最初は無臭なのに、アポクリン腺から出た汗が他の物質と混ざりあったり、微生物が作用することによって、においに変わることが分かりました。
特集の②では具体的な治療法についてまとめていこうと思います。
●参考文献
THE EFFECT OF ETHNICITY ON HUMAN AXILLARY ODORANT PRODUCTION
A Lucky Two Percent of People Have a Gene for Stink-Free Armpits